――OPENING

 

 ある夜。深夜ダイヤが始まる前、駅で働く職員たちが一か所に集められた。
 何かあったのかと顔を見合わせる職員たちの前に、一人の長身の人物が現れる。ゴーグルがはめ込まれたダンボールをかぶったその人は、三番線で働いている者なら、多少見知っているかもしれない男だった。男は皆の前に立つと、職員全員を見回す。
「初めての者が多いな。私は三番線で運転士を務めている、真柴孝之という。今日は皆に話があり、駅長の許可を得て召集をかけさせてもらった」

 少しくぐもった声で真柴は言う。何かあったのか、と訊きたげな職員たちの視線を受け、真柴は見えない口を開いた。

「実は、この地下鉄を襲撃しようという動きがあるようでな」

 真柴の言葉に職員たちがざわめく。純粋に驚く声もあれば、物好きな……という呆れの声も聞こえる。

「詳しくは、当人から聞いた方が早い。……おい永島」

「はっ、はい真柴さん!」

 真柴が手招きすると、女子学生と思しき人が姿を現す。焦げ茶の髪をおさげにし、銀縁眼鏡をかけた女子学生は、恐る恐るといった感じで真柴の隣に並んだ。

「は、はじめますて。おら……じゃなくて、わたし、永島りり子と申します。三番線の方々は、いつもお世話になっていて……」
 緊張で固まっている様子のりり子は、東北訛りでたどたどしく自己紹介する。見た目はいわゆる森ガールと呼ばれるような恰好の彼女だが、三番線で凄絶な笑みを浮かべながら、愛用のモーニングスターを繰っている姿をたびたび目撃されている。

「永島、いいから説明しろ」

「あ、はい! え、ええとですね、わたし、聞いちゃったんです」

 胸に手を当てて深呼吸すると、りり子はゆっくりと話し始める。

 数日前、彼女がいつものように地下鉄に向かっていた晩のこと。駅の近くの廃ビルで、見るからに危ない人々が集まっているのを見かけた。初めは深夜の乗客かと思い気にしなかったのだが、この駅の名前と、「襲撃」やら「復讐」やら、色々不穏な単語が聞こえたため、こっそり近づいて聞き耳を立てたのだそうだ。
 そこで彼女が聞いた話を要約すると、集まっていたその者たちは、いつまでたっても車掌や運転士と戦えない荒くれや、出入り禁止を言い渡された無法者。彼らは皆地下鉄や職員たちに、何らかの恨みを持っている。そういった者を大勢呼び集め、いっせいに地下鉄を襲撃・壊滅させてしまおう、とそういうことを企てているらしい。

 職員のあちこちから、失笑やため息が漏れる。

「……皆さん、ルールなんてくそくらえ! みたいなこと言ってましたし、きっとルール無用で来るんだと思います」
「この件に物的証拠はない。だが、こいつはここに強い婿を探しに来ている阿呆娘ではあるが、嘘を言う奴じゃあないんだ」
 すかさずりり子から「阿呆娘とはなんだべこのほんずなす!」という言葉が飛んだが、それを流して真柴は話を続ける。

「実は、永島ほどの情報じゃあないが、似たような報告は他からも出ていてな。駅長は、『それなら、お望み通り相手してやれ』とのお達しだ。いつもより手荒で構わないとも言っている」
 駅員だけでなく、救護員も車掌も運転士も存分に。続けられたその言葉に、一部の職員の目がぎらりと剣呑に輝いた。
「ただし! ルールは絶対に守れ、とのことだ。破った奴は例外なく制裁を行う」

 それを聞いた何人かから、心底残念そうなため息が聞こえた。

 それから、迎撃は全員強制参加ではない、と真柴は続ける。通常業務に励みたい者がいればそれもまたよし。特に救護員は、全員戦闘に参加するとなると負傷者の治療ができなくなる。

「それで、襲撃はいつなのか明らかになっているのでしょうか?」

 職員から飛んできた質問に、真柴が答える。

「奴らは、襲撃をゴールデンウィークの晩に予定しているらしい。そうだな、永島」

「はい、このボイスレコーダーにもそう録音されています!」

 どうぞ、とにこやかに差し出されたレコーダーに、真柴は目を見開いた。

「……は、お前証拠品あるんじゃないか! 聞いてねえぞ、あるなら最初から出せ!」

「ひぃ! ごめんなさい忘れてました!」

 くぐもった声で怒鳴る真柴に叩かれるとでも思ったのか、りり子は咄嗟に頭を抱える。その様子を見た真柴はひとつため息をつくと、頭を掻くかのようにダンボールをガリと引っ掻いた。次は気をつけろの言葉と共に、りり子からレコーダーを受け取る。それから、職員たちの前だということを思い出し、おほんと咳をする。

「……あー、もうこんな時間か。この件は後日おってまた連絡する。以上だ!」

 解散の言葉を受け、職員たちはこの後に控えている深夜ダイヤに向けて、それぞれ走っていく。

 職員たちは思う。いい鬱憤晴らしだと。思い切り暴れられると。とてつもなく面倒だと。

 それぞれの思いを抱えながら、彼らは自身の番線へ向かう。

 

 そして。その近くでは、偶然迷い込んだ乗客がこっそりとこの話を聞いていた。

 深夜の地下鉄の襲撃。その噂は静かに広がっていく。
 彼らは考える。駅側の手助けをするか。観戦を決め込むか。ゴールデンウィーク中は行かずにいるか。それとも……。


 

 ――やがて、暗い地下鉄が熱に沸く。

 

 

 

 

(私たちは、彼らの熱狂夜を形にすることができる)

(小説でも、絵でも、別のものでも構わない)

(彼らの夜をかいた作品であればなんだって)

(さあ存分に戦おう。存分に楽しもう)

(共に彼らの夜をえがこう)

 

「地下鉄深夜午前二時 -subway at dead of night-」

ゴールデンウィークぷち企画

【Crazy golden nights】

 

 

 

……というエイプリルフール企画でした。

診断してくださった皆さんの創作を見てテンションが上がり、ついカッとなってやった次第です。

本当に素敵な乗客さん職員さんばかりで……。

この場を借りて、診断を利用してくださった皆様に感謝を。

 

他のページは嘘企画の妄想になります。